大学入試センター試験の倫理の近代西洋思想を解説付きで。
Level A
おもに用語や知識が問われる問題です。
カントの著作について述べた次の文を読み,🅰️🅱️に入れる語句の組合せとして正しいものを,下の①~④のうちから一つ選べ。
カントは,『実践理性批判』において「繰り返し長く考えれば考えるほど,常に新たな感嘆と崇敬をもって心を満たすもの」として,「私の上なる星空と,私の内なる🅰️」の二つをあげているが,『🅱️』では,自然美や芸術を考察の対象として取り上げ,それらに関わる想像力(構想力)の自由な働きを分析している。
- ①🅰️自然法 🅱️弁証法的理性批判
- ②🅰️自然法 🅱️判断力批判
- ③🅰️道徳法則 🅱️弁証法的理性批判
- ④🅰️道徳法則 🅱️判断力批判
カントの三大批判と呼ばれる著書は「純粋理性批判」「実践理性批判」と「判断力批判」です。カントは「内なる道徳法則」が普遍的な法と一致することがよいと述べているのでAは道徳法則となる。
カントの思想についての説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 認識とは,対象のありようをそのまま心に受容することであるという従来の考え方を逆転し,認識とは,人間にア・プリオリに備わっている感性と悟性の形式の下で対象を構成することであると主張した。
- ② 認識とは,人間にア・プリオリに備わっている感性と悟性の形式の下で対象を構成することであるという従来の考え方を逆転し,認識とは,対象のありようをそのまま心に受容することであると主張した。
- ③ 認識の枠組みをア・プリオリに備えていない人間は,もっぱら経験から成り立つ認識の枠組みに基づいて,対象の背後にある物自体の認識に到達することができると主張した。
- ④ 認識の枠組みをア・プリオリに備えていない人間は,もっぱら経験から成り立つ認識の枠組みに基づいて,対象のありようをそのまま心に受容することができると主張した。
①の文章の通りです
ベンサムの思想を説明した記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間のもつ共感の感情に注目したベンサムは,利己的な感情を動機とする行為であっても人々の共感を得ることはできるのだとして,個人的な利益の追求がおのずと全体的な調和を実現しうると考えた。
- ② 普悪の規準を人間の快楽と苦痛におきながらも,その快楽に質的な違いのあることを認めたベンサムは,人間には自分自身の幸福だけでなく,関係者全員の幸福をも等しく願う側面のあることを指摘した。
- ③ 知識や信念の正しさはその実際的な有用性によって検証されると考えたべンサムは,科学と宗教は共にあらゆる人間に満足を与えるための道具だとする立場に立って,人類教を提唱した。
- ④ 快楽と苦痛こそ人間を支配するものだと考えたベンサムは,個々人の感じる快楽の量を合算して社会全体の幸福の総量を求める場合に,各人は誰もが等しく一人として数えられなくてはならないと主張した。
①:共感の感情に注目したという記述は検定教科書にありません。②はJ.S.ミルの思想です。③は実用主義的な考え方です。
次の文章は,個人の自由をめぐる思想についての説明である。文章中の🅰️🅱️に入れる語句の組合せとして正しいものを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。
私たちは日ごろ,自分は自由な個人で,したいことを主体的に選んで生きていると思っているが,🅰️に代表される構造主義によれば,個々の言葉の使用が言語の構造に規定されるように,個人の意識や行為は社会の規則や構造に規定されている。さらに,構造主義から出発した🅱️に従えば,自由な個人とは,いわば社会制度に自ら服従する人間の別名にすぎない。だが,逆に言えば,個々人が自発的に服従してしまうからこそ,社会制度が力をもつのである。このように,🅱️は,人間を規律化する制度や装置の発達に近代の特徴を見いだすとともに,服従を拒み,社会を変えていく力が人々の間に潜んでいることにも目を凝らす。自由な生への道は,決して絶たれていないのだ。
- ① Aレヴィ=ストロース Bメルロ=ポンティ
- ② Aレヴィ=ストロース Bフーコー
- ③ Aメルロ=ポンティ Bレヴィ=ストロース
- ④ Aメルロ=ポンティ Bフーコー
- ⑤ Aフーコー Bレヴィ=ストロース
- ⑥ Aフーコー Bメルロ=ポンティ
ぽんてぃってどなたですか?
ヘーゲルの歴史観についての説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 絶対精神は,歴史の発展過程において,道徳によって人間を外側から,法によって人間を内側から規制し,最終的に両者の対立を総合した人倫において,真の自由を実現する。
- ②絶対精神は,自らの抱く理念を実現する過程において,理性の狡知を発揮して,自らの意図に沿うように人間を操り,歴史を動かしていくことで,真の自由を実現する。
- ③ 絶対精神は,歴史の発展過程において,人倫によって人間を外側から,道徳によって人間を内側から規制し,最終的に両者の対立を総合した法において,真の自由を実現する。
- ④ 絶対精神は,自らの抱く理念を実現する過程において,理性の狡知を発揮して,国家同士を争わせ,歴史を通してそうした対立状態を保ち続けることで,真の自由を実現する。
①は道徳と法が逆です。③は人倫ではなく法です。法と道徳が弁証法的に統一され、共存する共同体が「人倫」であるとしました。
④のように「対立」関係を「保ち続ける」などということは、弁証法を唱えたヘーゲルが言うはずがありません。
ミルが個性の発展を擁護した理由についての記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 個性の自由な発展は,自我の安定のために有益であり,それを社会が認めないと,無意識の欲望が抑圧されて,自我の不安を覚える人々が多くなってしまう。
- ② 個性の自由な発展は,個人の幸福にとって不可欠なだけではなく,社会全体が進歩していくためにも有益であり他人に害を与えない限り,それを制限してはならない。
- ③ 個性の自由な発展は,人間が生まれながらにしてもっている自然権の一つであり,それを社会が抑圧しようとするのは,いかなる理由をもってしても絶対に許されない。
- ④ 個性の自由な発展は,人間が神から与えられた才能を開花させることであり,それを抑圧しようとするのは神を信じることのできない人間の徹機に基づいている。
これは他者危害の原則とよばれます。
自然選択(自然淘汰)や適者生存を論じた思想の説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① ダーウィンによれば,あらゆる生物は共通の祖先から枝分かれしながら進化してきたのであり自然選択(自然淘汰)によって環境によりよく適応した種が生き残っていく。
- ② ダーウィンによれば,あらゆる生物の種はそれぞれの固有の祖先から変化することはなく,自然選択(自然淘汰)によって環境によりよく適応した種が生き残っていく。
- ③ スペンサーによれば,人間社会もまた自然選択(自然淘汰)の法則に従っており,適者生存のメカニズムを通じて軍事的指導者が支配する社会へと進化していく。
- ④ スペンサーによれば人間社会もまた自然選択(自然洶汰)の法則に従っており,適者生存のメカニズムを国家が人為的に統制することで社会は進化していく。
生物基礎の範囲です。
実証主義と同じく人間や社会の疑い方に影響を与えた新たな理論の一つにダーウィンの進化論がある。その説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間を含めた生物は,突然変異と自然選択に基づいて,環境に適応することにより系統的に分化して,多様なものとなっていく。
- ② 人間を含めた生物は,部分としての器官からなる全体的な有機体であるが,社会も部分としての個体からなる有機的な集合体である。
- ③ 人間を含めた生物は,想像を絶するほど多様であるため偶然の諸連鎖ではなく突然の創造によって誕生したと考えざるを得ない。
- ④ 人間を含めた生物は,遺伝的に優れた形質をもつ子孫を保護し,劣るとされる形質をもつ子孫を排除すべく管理されるべきである。
「ホモ・ファーベル」というベルクソンの人間観の説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間は,言語や記号,芸術などのように,様々な意味をあらわす象徴を使って,現実の世界を抽象的な仕方で理解する存在である,ということに着目したものである。
- ② 人間は,他の動物よりも発達した知性(理性)をもち,それを活かして高度で複雑な思考や推理を行うことができる存在である,ということに着目したものである。
- ③ 人間は,目的をもって道具を作成し,それを用いて自然に働きかけ,自分たちで環境をつくりかえながら進化してきた存在である,ということに着目したものである。
- ④ 人間は,自分たちを超越した力をもつ世界にまなざしを向け,神を信じて祈りを捧げつつ,宗教という文化を育んできた存在である,ということに着目したものである。
日本語では「工作人」なので、あきらかに③です。①はホモ・シンボリクス、②はホモ・サピエンス、④はホモ・レリギオーススの説明です。
資本主義社会に対するマルクスの批判についての記述として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間は本来,他人と関わらず独立して生きる存在であるが,資本主義社会では相互依存の関係にあり人間性が失われた状態にある。
- ② 資本主義社会では,商品の交換関係が支配的となり,人間もまた,物のように取り替えのきく存在として提えられるようになる。
- ③ 生産手段をもたない労働者は,自分の労働力を売って生活するしかなく,労働の成果も資本家のものとなるなか,労働が苦役になっている。
- ④ 商品の価値は,人間の労働に由来するものであるにもかかわらず,商品や貨幣それ自体が価値をもつものとして,ますます崇拝されるようになる。
生産関係を説いているマルクスが、相互依存の関係をなくせというはずがありません。①は間違いです。
構造主義の代表的思想家にレヴィストロースがいる。次のア~ウのうち,彼の思想を正しく説明したものはどれか。その組合せとして正しいものを,下の①~⑦のうちから一つ選べ。
ア 西洋における科学技術文明の絶対化を批判し,「野生の思考」と科学的思考の間に優劣はないと主張した。
イ 理性的思考を言語の観点から考察し直し,言語活動は一定の規則に従う「言語ゲーム」であり,共同体において習得されるとした。
ウ 「未開社会」における親族や神話などの研究を通して,個人の主観的意識を超えたシステムが存在していることを見いだした。
- ① ア
- ② イ
- ③ ウ
- ④ アとイ
- ⑤ アとウ
- ⑥ イとウ
- ⑦ アとイとウ
イはウィトゲンシュタインの思想なので間違いです。正誤正の5となります。
ハイデッガーの思想の記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間は,誰もが自分の死を引き受けねばならず,死の自覚を介して,はじめて本来的な自己の在り方を獲得することができる。
- ② 人間は,生存への非合理的な意志のために,不断の欲求に駆り立てられ苦の世界に生きるが,意志の否定によって苦から脱却する可能性をもつ。
- ③ 人間は,単独者として神の前に立つことによって,神への信仰へと飛躍し,真の自己を回復することができる。
- ④ 人間は,不断に自己自身を超克しようとする意志によって,新たな価値を創造しニヒリズムを克服することができる。
③はキルケゴールの、④はニーチェの思想に近いです。
「生命への畏敬」を道徳の根本原理とし,人間の生命ばかりかあらゆる生物の生命を守れと説いた思想家として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① シュヴァイツァー
- ② キルケゴール
- ③ ルソー
- ④ サルトル
もっとも簡単な問題の一つです
サルトルの思想の説明として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間は,自己と自己を取り巻く社会の現実に関わらざるを得ないが,全人類への責任を自覚し,自ら進んで社会へ身を投じることで,現実を新たにつくりかえていく可能性に開かれている。
- ② 人間は,絶えず自らを意識しながら,自らを新たに形作ろうと努める存在であるため,いかなる状況においても変化しない,同一の本質をそなえた事物とは異なっている。
- ③ 人間は,自由であることから逃れられず,自由であることから生じる責任を他者に委ねることもできないため,不安に耐えて,自己と自己を取り巻く社会の現実に関わらざるを得ない。
- ④ 人間は,あらかじめ自らの本質が定められており,その本質を実現するために自らを手段として活用することによって,未来の可能性を切り開いていく,自由な存在である。
④は「実存が本質に先立つ」の言葉で知られるサルトルの思想としては適していない。人間は実存(自分の存在)が先にあり、本質は自らが形作っていくものであるとしました。
次の文章は,サルトルとカミュの作品と思想とを説明したものである。A~Cに入れる語句の組合せとして正しいものを,下の①~⑧のうちから一つ選べ。
『A』のなかで,主人公が公園のマロニエの木を見て,存在の偶然性を発見する場面を描いたサルトルは,第二次世界大戦後,人間について,Bのあり方を示した。一方,カミュは,『シーシュポスの神話』のなかで,山の上から転げ落ちる岩を運び上げることを無限に反復するシーシュポスの姿を描き,人間の生がCであることを示し,そのなかで生き続けることを人間の運命とした。
- ①A 嘔吐 B 本質に先立つ実存 C 不条理
- ②A 嘔吐 B 本質に先立つ実存 C 苦行
- ③A 嘔吐 B 実存に先立つ本質 C 不条理
- ④A 嘔吐 B 実存に先立つ本質 C 苦行
- ⑤A 第二の性 B 本質に先立つ実存 C 不条理
- ⑥A 第二の性 B 本質に先立つ実存 C 苦行
- ⑦A 第二の性 B 実存に先立つ本質 C 不条理
- ⑧A 第二の性 B 実存に先立つ本質 C 苦行
「本質に先立つ実存」とは、人間については本質が生まれてからつまり実存ができてから変化するということです。
社会学の創設者コントの思想の記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間の知性は,環境に適応するための道具である。この創造的知性によって人間性を改善し,理想的な民主主義社会を作り上げねばならない。
- ② 人間においては,実存が本質に先立ちあらかじめ決まった本性はない。このように自由な人間は,積極的に社会参加しなければならない。
- ③ 自由を本質とする精神は,まず個人の主観的精神として現れ,次に社会関係としての客観的精神となり,最後に両者を統一する絶対精神となる。
- ④ 人間の知識の発展は,神学的段階,形而上学的段階,実証的段階の三つに分けられ,その三段階は社会の進歩の三段階に対応している。
①はデューイの提唱した道具的知性の思想。②はサルトルの、③はヘーゲルの「世界史は自由の意識の進歩である」の言葉に代表される思想です。
次の文章は,超人をめぐるニーチェの思想についての説明である。A~Cに入れる語句の組合せとして正しいものを,下の①~⑧のうちから一つ選べ。
- 私たちの生きる世界を,あらゆることが目的もなく無限に繰り返される A の世界と捉えるのは,ともすれば恐ろしいことであるとニーチェは言う。だが,そのことから目をそらさず,自らの人生を「ならば,もう一度」と肯定的に引き受ける B を有するのが,ニーチェの考える超人である。生を肯定し,西洋の伝統的な道徳に囚われず C を体現する超人は,自らの手で新しい価値を創造するのである。
- ① A輪廻転生 B運命愛 C力への意志
- ② A輪廻転生 B運命愛 C性の衝動
- ③ A輪廻転生 B自己愛 C力への意志
- ④ A輪廻転生 B自己愛 C性の衝動
- ⑤ A永劫回帰 B運命愛 C力への意志
- ⑥ A永劫回帰 B運命愛 C性の衝動
- ⑦ A永劫回帰 B自己愛 C力への意志
- ⑧ A永劫回帰 B自己愛 C性の衝動
問題文と回答の通りです。
Level B
広範囲の知識が問われる問題や、ちょっと考える問題です。
カントはその道徳思想において「自律」を強調したが,この概念についての説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 適切な欲望を自分で選ぶことが重要であり,このことが人間の自由とも結び付く。
- ② 神が与えた道徳法則に自ら従うことが重要であり,このことが人格の尊厳とも結び付く。
- ③ 理性が自ら立てた法則に従うことが重要で,このことが人間の自由とも結び付く。
- ④ 構想力が自ら生み出した法則に従うことが重要で,このことが人格の尊厳とも結び付く。
①:欲望ではなく内なる道徳法則についてのことです ②:カントは神の存在を持ち出していないので間違いです。 ④道徳法則は、ア・プリオリに備わっているとカントは述べているので、「構想力が生み出した」が間違いです
科学的な認識に関するカントの主張として正しいものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 認識はすべて経験に由来するものであり,人間の心はもともと何も書かれていない白紙のようなものである。
- ② 確実な認識は,経験に依存せず,人間に生まれつきそなわっている観念を基礎とした理性的思考によって得られる。
- ③ 認識とは,主観にそなわる認識能力によって対象を構成することであり,認識が対象に従うのではなく,対象が認識に従う。
- ④ 確実な認識は,精神が弁証法的運動を通じて段階的に発展していく過程において得られるものである。
①はロックの、②は大陸合理論の思想に近いです。④:カントは弁証法について説いていません。
次の文章は,カントとヘーゲルの「自由」をめぐる考え方についての説明である。文章中の🅰️🅱️に入れる語句の組合せとして正しいものを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。
カントによれば,人間は,感性的存在としては「自然法則」に支配されているが,理性的存在としては「道徳法則」に自ら従うことができる。彼は後者のあり方を🅰️と呼び,これこそが人間が享受し得る真の自由であるとした。
他方でヘーゲルは,個々人の内面的な判断の中に自由の根拠を求めるカントの立場を批判し,「最高の🅱️が最高の自由である」という観点に基づきつつ,個々人が内的に判断する道徳と,人間関係を外的に規制する法との対立を止揚した「人倫」の中に,真の自由が実現する可能性を見いだした。
- ① A意志の自律 B自立性
- ② A意志の自律 B共同性
- ③ A意志の自律 B功利性
- ④ A意志の格率 B自立性
- ⑤ A意志の格率 B共同性
- ⑥ A意志の格率 B功利性
意志の自律とは、自らの意思が自分に従っていること。格率は「あり方」ではなく、自らに定めた行動の法則である。Bについて、「自立性」はカント、「功利性」は功利主義者のベンサムやJ.S.ミルに近い考え方。
カントの批判哲学について述べた次の文章を読み,🅰️🅱️に入れる語句の組合せとして正しいものを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。
カントによれば,経験論も合理論も,人間の認識の成立条件を解明しておらず,そのために,前者は不可知論につきあたり,後者は独断論に陥る。このような反省からカントは,人間理性の能力を検討し,認識能力の源泉と限界を明らかにしようと試みた。その主著🅰️においては,「我々の認識はすべて経験とともに始まるとはいえそれだからといって我々の認識がすべて経験から生ずるのではない」と述べられている。この一文は,🅱️の働きがなければ,いかなる対象も与えられないが,対象を客観的に捉えるための枠組みが経験に先立って存在しなければ,認識は成立しないということを意味している。
- ①🅰️『人間悟性論』 🅱️悟性
- ②🅰️『人間悟性論』 🅱️感性
- ③🅰️『人間悟性論』 🅱️意志
- ④🅰️『純粋理性批判』 🅱️悟性
- ⑤🅰️『純粋理性批判』 🅱️感性
- ⑥🅰️『純粋理性批判』 🅱️意志
感性は経験(直観)をつかさどるもので、悟性は理解(概念)をつかさどるものです。したがって、対象を与えるのは感性ということになります。
次の文章は,人間の認識をめぐるカントの思想の説明である。文章中のA~Cに入れる語句の組合せとして正しいものを,下の①~⑧のうちから一つ選べ。
カントは,イギリスの経験論と大陸のAの二つの立場を統合して,人間の認識の仕組みを説明したとされる。外界にある対象の認識に際して,Bを通じてもたらされるものは,ばらばらの素材にすぎず,そのままでは理解できない。そこで,Cを用いる能力である悟性が,論理的な枠組 みや形式(カテゴリー)に従い,それらの素材を,我々が理解できるように整理し,秩序づける。このように,カントは,人間の認識は諸能力の協働によって成り立っていると考え,特に我々が美を捉えようとする際には,諸能力が優劣なく互いに調和していることに着目し,その様子を「自由な遊び」と表現した。
- ①A唯物論 B感覚 C概念
- ②A唯物論 B感覚 C直観
- ③A唯物論 B情念 C概念
- ④A唯物論 B情念 C直観
- ⑤A合理論 B感覚 C概念
- ⑥A合理論 B感覚 C直観
- ⑦A合理論 B情念 C概念
- ⑧A合理論 B情念 C直観
A 唯物論はニーチェなどがその代表的な提唱者で,合理論が正解です。C カントは、悟性は概念を、感性は直観を用いる能力であると述べました。
カントの道徳思想についての説明として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選ぺ。
- ① 道徳的な行為とは,単に結果として義務にかなっているだけではなく,純粋に義務に従おうとする動機に基づく行為のことである。
- ② 道徳的な行為とは,すべての人々にとっての目標である幸福を,社会のできるだけ多くの人々に,結果としてもたらす行為のことである。
- ③ 各人は,自分の行為の原則(格率)が誰にとっても通用する原則であるかどうかを絶えず吟味しながら,行為しなければならない。
- ④ 各人は,人々が互いの人格を尊重し合う理想の共同体を目指すべきであり,この共同体は,目的の国(王国)と呼ばれる。
②はベンサムの功利主義的な思想です。カントは反対に、道徳的な行為は普遍的行為ではなく、個人的かつ目的自体であると述べています。
J.S.ミルは,他者や社会のために献身するといった道徳的行為を個々人がするようになるには,どのような手立てを講じるのが最も重要であると考えたか。その説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。('20本試験4-5)
- ① 他者や社会の利益を減じるような行為をした者には罰金や懲役といった刑罰を科す,とする法律を為政者が作ることによって,個々人の行為を外的に規制することが最も重要である。
- ② 個々人による利益の追求が,結果として不平等や抑圧をもたらすことのないよう,労働者階級が団結して社会革命を起こし,共産主義に基づく新たな社会を実現することが最も重要である。
- ③ 他者や社会の利益を減じるような行為をすると,良心による責めを感じるような人間性を涵養することによって,個々人が自らの行為を内的に規制できるようにすることが最も重要である。
- ④ 個々人による利益の追求は,あたかも「見えざる手」によって導かれるかのように,結果として他者や社会の利益の拡大につながっていくのだから,個々人の行為を自由に放任しておくことが最も重要である。
1番目はベンサムの、2番目はマルクスの、4番目はアダム=スミスの思想に近い
J.S.ミルの次の文章を読み,そこに述べられている考えに即した意見として最も適当なものを,下の①~④のうちから一つ選べ。
文明社会の成員に対し,彼の意志に反して,正当に権力を行使し得る唯一の目的は他人に対する危害の防止である。⋯そうする方が彼のためによいだろうとか,彼をもっと幸せにするだろうとか,他の人々の意見によれば,そうすることが賢明であり正しくさえあるからといって,彼になんらかの行動や抑制を強制することは,正当ではあり得ない。
(J.S.ミル『自由論』)
- ① 自動車のシートベルトの着用は,事故が起きたときに本人を守ることになるから,強制してよい。
- ② 健康な若者がお年寄りに席を譲ることは,誰もが認める正しい行為だから,強制してよい。
- ③ 飛行機の離着陸時に携帯電話を使うことは,電子機器に影響を与える可能性があるから,禁止すべきだ。
- ④ クローン人間をつくることは,国際的にも国内的にも世論の強い反対があるから,禁止すべきだ。
他者危害の原則とあるように、他人に危害を加える可能性がある行為以外は口出しすべきでないといったのがミルです。なので③になります。
人倫という概念で道徳を捉え直した思想家にヘーゲルがいる。ヘーゲルの人倫についての説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 欲望の体系である市民社会のもとでは,自立した個人が自己の利益を自由に追求する経済活動が営まれるなかで,内面的な道徳も育まれるために,人倫の完成がもたらされる。
- ② 人間にとって客観的で外面的な規範である法と,主観的で内面的な規範である道徳は,対立する段階を経て,最終的には,法と道徳を共に活かす人倫のうちに総合される。
- ③ 国家によって定められる法は,人間の内面的な道徳と対立し,自立した個人の自由を妨げるものなので,国家のもとで人々が法の秩序に従うときには,人倫の喪失態が生じる。
- ④ 夫婦や親子など,自然な愛情によって結び付いた関係である家族のもとでは,国家や法の秩序のもとで失われた個人の自由と道徳が回復され,人倫の完成がもたらされる。
①は経済活動によって道徳がはぐくまれるとは言っていないので間違いです。ヘーゲルは、国家は法と道徳とが弁証法的に「共存した」場つまり人倫であるとしているので、喪失態は生じません。④は家族のもとではなく、法も働いていてはじめて人倫が完成するので間違いです。
- ①ア フーリエ イ バーナード・ショウ ウ オーウェン
- ②ア フーリエ イ オーウェン ウ バーナード・ショウ
- ③ア バーナード・ショウ イ フーリエ ウ オーウェン
- ④ア バーナード・ショウ イ オーウェン ウ フーリエ
- ⑤ア オーウェン イ フーリエ ウ バーナード・ショウ
- ⑥ア オーウェン イ バーナード・ショウ ウ フーリエ
次のア~ウは産業革命がもたらした社会問題の克服を模索した思想家についての記述であるが,それぞれ誰のものか。その組合せとして正しいものを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。
ア 経営者の立場から,労働者の生活や労働条件の改善に努めた後,理想社会の実現を目指してアメリカに渡り,共同所有・共同生活の村(ニューハーモニー村)を実験的に建設した。
イ 自由競争下での産業社会は統一性を欠いた無政府的なものであり,不正や欺瞞に満ちていると考え,農業を基本とした。調和と統一のとれた理想的な共同社会(ファランジュ)を構想した。
ウ フェビアン協会の指導者の一人であり,福祉政策の充実や生産手段の公有化などを行うことによって,現代社会が抱える悲惨な状況を少しずつ改善していくべきであると主張した。
解説は問題文と答えのとおりです。
社会の形成について考察したデューイに関する説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① できるだけ早く実現し,強く長く確実に続き,広範に影響を及ぼす快楽を,できるだけ多くの個人に提供することが,行政や司法の判断基準および市民の道徳原理となり得ると主張した。
- ② 社会主義の確立を目指しつつも,暴力的な革命を避け,労働者の権利の保障や労働条件の改善を議会活動を通じて実現し,利潤の再分配や土地・資本の国有化によって,資本主義の弊害を取り除こうとした。
- ③ 産業革命以降の労働者が陥った困窮の原因を,不正と欺瞞に満ち,調和を欠いた自由競争に求め,人道主義の立場から農業を基とした平等な社会 (ファランステールまたはファランジュ)を構想した。
- ④ 具体的な問題を解決し,生活を改善するために,試行錯誤や実験を繰り返すことで,多様な価値が認められ,個人と社会が調和する,理想的な民主主義社会が実現されると考えた。
①はベンサムの、②はウェッブ夫妻の、③はフーリエの思想と考えられます。
次のア〜ウは,進歩や進化を論じた思想家の説明である。その正誤の組合せとして正しいものを,下の①~⑧のうちから一つ選べ。
ア ショーペンハウアーは,世界史を「自由の意識の進歩」と捉え,一人の人間が自由であった時代から万人が自由な時代に進むと論じた。
イ スペンサーは,進化論を社会に適用し,自由競争と適者生存のメカニズムが国家等の干渉を受けないとき分業が進み社会が発展すると論じた。
ウ ヴォルテールは,伝統的身分や宗教的権威が君臨する旧制度を批判し,階級闘争による歴史の必然的進歩が,革命によって成就すると論じた。
- ① ア正 イ正 ウ正
- ② ア正 イ正 ウ誤
- ③ ア正 イ誤 ウ正
- ④ ア正 イ誤 ウ誤
- ⑤ ア誤 イ正 ウ正
- ⑥ ア誤 イ正 ウ誤
- ⑦ ア誤 イ誤 ウ正
- ⑧ ア誤 イ誤 ウ誤
アはヘーゲルの、ウはマルクスの思想であると考えられます。
有機体や進化という考え方に注目して人間を考察した思想家にデューイがいる。次の文章は,彼の思想についての説明である。A~Cに入れる語句の組合せとして正しいものを,下の①~⑧のうちから一つ選べ。
デューイは,人間も他の生物と同じように,有機体として環境に適応することで生き,成長すると考えた。彼の提唱する A によれば,人間に特有な知性もまた,抽象的な真理を発見するためにではなく,日常生活上の苦境や問題への対処を実り豊かにし,その解決に役立つためにある。彼は,環境との相互作用を通じて個々の問題解決を図り,未来を展望する能力をBと呼び,この能力を発揮することで,人は過去の習慣を修正し自我を未来に向けて形成できるとした。さらに,デューイは,こうした人間観に基づいて,従来の暗記中心教育に対して,問題解決型教育を新たなモデルとした教育改革思想も打ち出している。著書Cで主張されるように,彼は学校での学習も,学校のそとで起こっている社会の問題の解決に関わるべきだと考えた。
- ①A道具的理性 B創造的知性 C『幼児期と社会』
- ②A道具的理性 B創造的知性 C『民主主義と教育』
- ③A 道具的理性 B投企 C『幼児期と社会』
- ④A 道具的理性 B投企 C『民主主義と教育』
- ⑤A 道具主義 B創造的知性 C『幼児期と社会』
- ⑥A 道具主義 B創造的知性 C『民主主義と教育』
- ⑦A 道具主義 B投企 C『幼児期と社会』
- ⑧A 道具主義 B投企 C『民主主義と教育』
Aは人間に特有な知性「もまた」とあるので、より普遍的な道具主義が答えとなる。
マルクスとエンゲルスの思想の説明として最も適当なものを,次の①〜④のうちから一つ選べ。
- ① 資本主義社会においては,土地や工場など生産活動に必要なものをもつ人々と,そこで働くだけの人々との関係が,政治や芸術など人間の精神的な営みを規定すると考えた。
- ② 社会は個人をすべて合わせたものなので,社会の幸福を最も大きくするためには,最も多くの個人ができるだけ幸福になる必要があり,その目的の達成が社会の改革の基準となると考えた。
- ③ 世界は,絶対精神が自ら現実のものとなることによって展開していくのであり,労働者や資本家の意識や,その両者の関係は,絶対精神が客観的に実現されたものであると考えた。
- ④ いかなる状況にあっても人間は相互に助け合わなければならないので,主に資本家の善意に基づき,人間が平等に扱われる理想的な共同体を作り出すことで,幸福な社会が実現すると考えた。
①:彼らは「資本主義社会」だけではなく、社会主義社会などほかのものについても以下の関係が成り立つとしました。これらの関係は下部構造(精神的営み)と上部構造(生産関係など)とよばれます。
②はベンサムの、③はヘーゲルの思想に近いです。
次のア~エは,仕事のない人や貧しい人を助けようとする人たちに影響を与えた思想家たちで,A~Dはその考えや実践である。これらの思想家とその考えや実践の組合せとして正しいものを,下の①~⑧のうちから一つ選べ。
ア オーウェン
イ サン=シモン
ウ フーリエ
エ ウェッブ(ウェブ)夫妻
A 資本主義における貧富の差労働者や女性の隷属の主な原因は,商業資本家の強欲にあると説き,協同組合に基づく理想社会を構想した。
B 人間の性格に対して,家庭や教育労働などの環境が与える影響は重大であると説き,アメリカに渡って理想の共同社会の建設を目指した。
C 資本主義の弊害を除去するためには,利潤の公平な再分配や主要産業の国有化が必要であると説き,議会活動を通じた社会改革を目指した。
D 産業を科学と有機的に結び付けることで組織化すれば,合理的な社会が作られると説き,労働者を含む産業者による社会の管理を目指した。
- ① ア-A イ-B ウ-C エ-D
- ② ア-D イ-C ウ-B エ-A
- ③ ア-B イ-A ウ-D エ-C
- ④ ア-D イ-A ウ-C エ-B
- ⑤ ア-A イ-C ウ-B エ-D
- ⑥ ア-B イ-D ウ-A エ-C
- ⑦ ア-C イ-B ウ-D エ-A
- ⑧ ア-C イ-D ウ-A エ-B
問題文の通りです。
フッサールの思想の記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間は自己の在り方を自由に選択するため,実存が本質に先立つ。
- ② 事物は知覚と独立には存在せず,存在するとは知覚されることである。
- ③ 言語の限界を超える語り得ぬものについては,沈黙せねばならない。
- ④ 自然的態度を変更し,判断中止を行うことが必要である。
①はサルトルの、②はバークリの、③はウィトゲンシュタインのものです。
ニーチェについての説明として最も適当なものを,次の ①~④のうちから一つ選べ。('20本試験4-7)
- ① キリスト教の教義に基づく禁欲的な道徳を,強者の自己肯定に根ざした高貴な者たちの道徳として賞賛した。
- ② 個々人が,必ずや訪れる自らの死と向き合うことを通じて,本来的な自己のあり方に目覚める重要性を説いた。
- ③ 既成の道徳や価値観への信頼が失われた事態を正面から引き受け,新たな価値を自己自身で創造しつつ生きることを求めた。
- ④ 他者や世俗的な出来事の中に埋没し,本来的な自己のあり方を見失ったまま生きる人間を「ダス・マン(世人)」として批判した。
2番目はヤスパース/ハイデッガーに、4番目はハイデっガーに近い思想です。
1番目については、ニーチェはキリスト教を強者に対する弱者のルサンチマンであると批判している。
モンテーニュの『エセー』に親しんだ思想家にニーチェがいる。ニーチェの思想についての記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間は,まず生存するために,ついで生きるために,いわば二度誕生し,心身ともに独立した自己へと成長しなければならない。
- ② 人間は,意味もなく永遠に反復される人生を積極的に肯定することによって,現在を真に生きることができる。
- ③ 人間は,知性の能力を駆使して現実の状況における問題を解決することで,状況に対応した自由を実現していくことができる。
- ④ 人間は,無目的な意志を本質とする世界のなかで,満たされぬ欲望に苦悩しつつ,生きなければならない。
①はルソーの思想です。③はデューイなどの考えに近いです。④は前半は正しいですが、「満たされぬ欲望に苦悩しつつ」の部分がニーチェの述べた「超人」としてのありかた(つまり力への意思を備えた存在)に反するため間違いです。
「連帯」という言葉は19世紀以降様々な文脈のなかで用いられたが,サルトルにおいてそれはどのような主張と結び付けられているか。次の①~④のうちから正しいものを一つ選べ。
- ① 人間の決断は私的ではあり得ず,常に全人類への責任を伴う。しかし,この責任を回避せず進んで引き受け,社会的に連帯することが必要である。
- ② 人間は自分一人では真の自己に目覚めることはできない。だからこそ,実存的交わりにおいて他者と連帯することが必要である。
- ③ 人間相互の疑惑や不信によって生じた過去の戦争を反省し,人類の知的・精神的連帯のうえに平和を築くことが必要である。
- ④ キリスト教を中心とするこれまでの道徳は強者に対するルサンチマンに基づいた,弱者による連帯が作り出したものである。
②:ヤスパース ④:ニーチェ
次のア〜ウのうち,ハイデッガーの思想についての説明として正しいものはどれか。その組合せとして最も適当なものを,下の①~⑦のうちから一つ選べ。
ア 人間は,存在するとはそもそもいかなることかを問うことのできる,唯一の存在者である。私たちのそうしたありようは,現存在(ダーザイン)と呼ばれる。
イ 人間は,それ自体で存在する事物(即自存在)とは異なって,未来に向けて投企しつつ,自己を意識する。私たちのそうしたありようは,対自存在と呼ばれる。
ウ 人間は,世界のなかに投げ出されており(被投性),そこで様々な事物や他者と関わりながら日常を生きる。私たちのそうしたありようは,世界内存在と呼ばれる。
- ① ア
- ② イ
- ③ ウ
- ④ アとイ
- ⑤ アとウ
- ⑥ イとウ
- ⑦ アとイとウ
イはサルトルの思想です。
次の文章は,大衆社会と科学技術を批判したハイデッガーの思想について説明したものである。A~Cに入れる組合せとして正しいものを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。
ハイデッガーは,人々がうわ話に夢中になり新奇なものを求め,なんとなく曖昧に生きている日常的なあり方をAと呼んだ。こうしたあり方から本来の自己へと至るには,Bのただなかで,自己の死の可能性を直視することが必要だとした。後に彼は,科学技術のあり方を考察し,そこでは人間も含めてあらゆるものが利用されるべき材料とみなされていることを批判した。彼はこうした状態をCの喪失と呼び,そこから脱却する道を模索した。
- ①A ルサンチマン B 絶望 C 故郷
- ②A ダス・マン B 不安 C 人倫
- ③A ルサンチマン B 不安 C 故郷
- ④A ダス・マン B 絶望 C 人倫
- ⑤A ルサンチマン B 絶望 C 人倫
- ⑥A ダス・マン B 不安 C 故郷
問題文の通りです。
自己について考察したキルケゴールに関する説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① いまここにある自己が,他者とは異なるただ一人の自己として生きることの重要性を説き,自らの主体的真理の探究を主張した。
- ② つねにすでに世界の中に投げ出され,様々な事物や他者と関わりながら生きる自己は,「世界内存在」というあり方をしていると論じた。
- ③ 各人は自己のあり方を自由かつ自覚的に選択できるが,その選択は,社会や全人類のあり方と強く結び付いていると説いた。
- ④ 孤独と絶望に耐えながら真実の自己を追求する者同士の,全人格的かつ理性的な交わりを,「愛しながらの戦い」と呼んだ。
②はハイデガーの③はサルトルの、④はヤスパースの思想に近いです。
次のア~ウは,キルケゴールの思想を説明した記述である。その正誤の組合せとして正しいものを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。
ア ヨーロッパの人々が,生きる意味や目的を失ってしまったのは,キリスト教道徳に原因があり,そのキリスト教道徳は弱者が強者に対して抱く「ルサンチマン」に基づいている。
イ 人は倫理的に生きようとすると,欲望を「あれも,これも」満たす生き方にとどまることはできず,自らの生き方について「あれか,これか」の決断を迫られざるを得ない。
ウ 人間は自由な存在である。だが,自由に自分の生き方を決められるということは,その選択の責任がすべて自分にかかることを意味する。人間のこのあり方は「自由の刑に処せられている」と表現される。
- ①ア正 イ正 ウ誤
- ②ア正 イ誤 ウ正
- ③ア正 イ誤 ウ誤
- ④ア誤 イ正 ウ正
- ⑤ア誤 イ正 ウ誤
- ⑥ア誤 イ誤 ウ正
アはニーチェの、ウはサルトルの思想です。
人間理性のあり方を批判的に検討した現代の思想家フーコーについての記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 西洋哲学を成り立たせてきた主体などの概念が覆い隠してきた問題を,歴史のなかで新たに問うために脱構築を主張し,理性の概念を捉え直した。
- ② 理性と狂気とが区別されるようになってきた西洋の歴史を分析し,確固とした理性という考えが歴史の過程の産物であることを明らかにした。
- ③ 非西洋の未開社会の実地調査を通して,西洋社会とは異なる独自の思考体系を見いだし,西洋の理性的思考を特権化するような考えを斥けた。
- ④ 自己意識のなかに取りこめない他者性が現れる場を「顔」という言葉で表現し,そのような他者に向き合えない理性の暴力性に照明を当てた。
①はデリダの、③はレヴィ・ストロースの、④はレヴィナスの思想と考えられます。
Level C
内容の理解が問われる問題です。
人間の認識能力をめぐるカントの思想の説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 時間・空間という形式をもつ悟性と,量・質・関係・様相という形式をもつ感性の協働により認識は成立する。それゆえ,「内容なき思考は空虚」であり,「概念なき直観は盲目」である。
- ② 受容した素材を,経験に先立って存する形式によって秩序づけるのだから,私たちの認識は単なる模写ではない。「認識が対象に従う」というよりは,むしろ「対象が認識に従う」のである。
- ③ 経験を通じて与えられるのは現象のみである。だが,与えられた現象を手がかりとして,その背後に想定される物自体についてまで,私たちは認識をひろげることができるのである。
- ④ 神,宇宙の始まり,自由霊魂の不滅など,私たちの経験を超える事柄に関しては,理性はこれを認識の対象とすることができない。したがって,それらの存在は否定されるべきである。
①は悟性と感性が逆です。カントによると③対象が認識に従うのだから、物自体については認識は広げられません。④についてカントは、そのようなものは理性の及ぶべき範囲ではないとしていて、「否定されるべき」とは言っていません。
カントの批判哲学についての記述として正しいものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 合理論と経験論の一面性を乗り越えるべく,両者の立場を総合して,人間が物自体を理性によって認識できると論じた。
- ② ヒュームの著作に影響を受け,自然科学の客観性を疑問視して,その基礎にある因果関係が主観的な信念であると論じた。
- ③ ロックの著作に影響を受け,人間の霊魂や神など,人間が経験できる範囲を超えた対象については,その存在を否定できると論じた。
- ④ 認識が成立する条件を考察し,人間の認識は,認識の素材を受け取る能力と,その素材を整理し秩序づける能力の両者から生じると論じた。
①は、カントは物自体を認識できるとは言っていません。
②:カントが因果関係は悟性のひとつであるとはいっていますが、主観的な信念とは論じていません。
③:「否定できる」ではなく、理性の及ぶ範囲内で考えるべきでないと言っています。
次のカントの文章を読み,その内容の説明として最も適当なものを,下の①~④のうちから一つ選べ。
人は道徳法則に反した振る舞いを思い出すとき,それを故意でない過失として,どうしても避けられない単なる不注意として,したがって,自らが自然必然性の流れに押し流された出来事であるかのようにとりつくろい,自分はそれについて責めがないと宣言するために,好きなだけ技巧を凝らすこともできよう。その人は,しかし,自分が不正を犯したときにそれでも自分で判断してやったこと,つまり自らの自由を行使していたことを意識している限り,自らに有利なように語る弁護人としての自分も,自らのうちに住まう原告としての自分を決して沈黙させられないことに気づく。⋯悪事を自然の結果とみなしたからといって,それによってその人が自分自身に加える自責や非難から守られるというわけではない。ずっと以前に犯した行いについてそれを思い出すたびに後悔することも,以上のことに基づいている。(『実践理性批判』より)
- ① 人は自らの不正な行いを,自然界の必然性に従って生じた,自分では回避できない出来事として解釈できる。その場合,人は自分に有利に語り,自分には責めがないことを自らにも他人にも表明する自由がある。
- ② 人は自らの不正な行いについて自責や後悔の念に駆られることがある。その場合,人はその行いが過失や不注意によるものではなく,自分の判断によってなされた自由な行為であったことを意識している。
- ③ 人は自らの不正な行いを自然界の必然性に従って生じた,自分では回避できない出来事として解釈できる。ただし,その行いが遠い過去のことになると,それを思い出すたびに後悔するようになり,道徳的意識が高まる。
- ④ 人は自らの不正な行いについて,自責や後悔の念に駆られることがある。ただし,人の行いは過失や不注意の結果にすぎない場合もあり,その行いに対する非難から自分を守るために人は道徳法則に訴える。
①表明する自由があるかどうかについては述べていません。また、①も③も問題文から完全に解釈しきることはできないと判断できるので間違いです。④は、単に過失や不注意の場合については問題文では扱っていないので不適切です。
次のベンサムの文章を参考にしながら,ベンサムの思想の説明として最も適当なものを,下の①~④のうちから一つ選べ。
人間以外の動物が,人間の暴力的な支配によって奪われてきた権利を手に入れる日がいつか来るかもしれない。⋯脚の数が違うことや⋯尾のあることが,感覚をそなえた存在を気ままに苦しめてよい十分な理由にならないことが,いつの日かきっと明らかになるだろう。それなら,人間とそれ以外の動物との間に越え難い一線を引くものが,ほかにあるだろうか。思考の能力や話す能力の有無がそれだろうか。しかし,成長した馬や犬は,生後1日や1週間の赤ん坊と比べても,1か月の赤ん坊と比べても,はるかに理性的であり,はるかに意思の疎通ができる動物である。また,たとえそうでなかったとしても,そこに何の意味があるだろうか。問題は,馬や犬が理性的に考えられるかでも,話すことができるかでもなく,苦痛を感じることができるかなのである。
(ベンサム『道徳および立法の諸原理序説」)
- ① ベンサムは快楽の量と質の区別を重視したため,感覚をそなえていることこそが,利益を尊重すべき存在とそうでない存在を分ける唯一の境界線になると主張している。
- ② ベンサムは最大多数の最大幸福を目指したため,幸福の量を計算できる知性をもつことこそが,権利を尊重すべき存在とそうでない存在を分ける境界線になると主張している。
- ③ 道徳感情を正と不正の判断基準にするベンサムにとって,苦しみや痛みを感じることができる能力は,言語能力や高等数学の能力のような他の能力とは根本的に異なるものである。
- ④ 快楽を善とし,苦痛を悪とみなすベンサムにとって,苦しみや痛みを感じることができる能力こそが,何らかの存在が平等な配慮を受ける権利を得るために必須の能力である。
①:快楽の量と質を区別したのはミルです。②:幸福の量を計算できる能力ではなく、それらを「感じる」能力が重要であるとしました。
③:は一見正しいように見えますが、道徳感情を「正と不正の判断基準にする」とは述べていません。
功利主義者ベンサムは行為の判断基準として行為の結果を重んじた。彼の考え方による発言として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ①「私は,どんな状況下でも嘘をつくべきではないと考えているので,白分に不利益が及ぶとしても正直に話をすることにしている。」
- ②「私の行動原則は,その時々の自分の快楽を最大にすることだから,将来を考えて今を我慢するようなことはしないことにしている。」
- ③「社会の幸福の総和が増大するとしても,不平等が拡大するのはよくないから,まずは個々人の平等を実現すべきだと,私は考える。」
- ④「自分の行動が正しいかどうかに不安を覚えるとき,私は,その行動をとることによって人々の快楽の量が増えるかどうかを考える。」
①は社会全体の快楽が大きくなるような嘘なら構わないとしたので間違いです。②は、ベンサム自身が、快楽計算で「持続性」にも重きを置いていることから間違いであることがわかります。③も総和を重視したベンサムにとっては適当でないと考えられます。
次のベルクソンの文章を読み,その内容の説明として最も適当なものを、下の①~④のうちから一つ選べ。
同じ対象を見続けるような場合でも,いま私がもっている視覚像は,ほんの少し時がたったという理由だけで,つい先ほどの像とは異なるものになる。私の記憶機能が,何がしかの過去を現在に押し込むからである。時間という道を進みながら,私の心的状態は絶えず膨張し続ける。⋯その過程は,ある一瞬が別の一瞬に置き換わるというようなものではない。⋯私たちの人格は,このようにして絶えず成長し,大きくなり,成熟する。その各々の瞬間は,以前あったものに付け加わる新しいものである。さらに言えばそれは単に新しいものというだけでなく,予見できないものでもある。⋯なぜなら,予見するとは,過去に知覚したものを未来に投影することであるからだ。⋯だが,これまでに知覚されなかったものは,必然的に予見不可能である。⋯私たちが芸術家として手がける生の一瞬一瞬は,一種の創造なのである。(『創造的進化』より)
- ① 私たちの人格は,過去と現在を混ぜ合わせつつ,時間を通じ絶えず成熟する。そのことで過去が刻々と変質するため,私たちは,これまでに知覚したことのない事柄をも想起できるようになる。
- ② 私たちのもつ記憶機能は絶えず過去を現在へ持ち越す。したがって,私たちは,これら残存する過去を投影することによって,自らの未来を見通すことができるのである。
- ③ 私たちの人格は過去と現在を融合させながら,時間を通じ不断に成長する。このため,私たちが生きる各々の瞬間は,今までにない新しさをそなえ芸術創作にも等しい創造性を孕むこととなる。
- ④ 私たちのもつ記憶機能は,不断に過去を現在に押し込む。したがって,私たちは,手持ちの過去を適宜活用しつつ,今までにない芸術作品を創造することができるのである。
①は過去に知覚したものを未来に投影することが予見することであるから、知覚していないことが「想起できる」ようにはなりません。②は、「その各々の瞬間は...予見できない」とあるので間違いです。④は、芸術作品の創造は「手持ちの過去」を用いないからこそ創造なのであり、間違いです。
ハイデッガーの思想についての説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 西洋文明は,存在するものを科学的に対象化したり技術的に支配したりすることに没頭し,あらゆる存在するものの根源にある存在を忘れ去ってしまうという,存在忘却に陥っている。
- ② 文明の進歩を約束すると思われていた理性は,外的自然のみならず人間の感情などの内的自然をも支配するものであり,人間の目的達成の道具にすぎないため,今や新たな野蛮を生み出している。
- ③ 従来の西洋哲学は,すべての存在するものを自己に同化しようとする全体性の立場に固執しており,それゆえ自己の理解を超え出ていく他者の他者性を抹殺している。
- ④ 西洋社会の人々よりも知的に劣っていると思われていた未開社会の人々の思考には,文明社会の科学的思考に劣らず,構造的な規則が含まれており, 西洋文明だけを特権視することはできない。
「共感(同感)」についてのアダム・スミスの思想の説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人間は,もともと自然な自己愛と他人を思いやる共感的感情を調和させて平和に暮らしていたが,文明社会のなかでは他人に共感する思いやりの心が失われてしまった。
- ② 自己の利益を追求して自由に活動する諸個人も,第三者の立場に身をおいても共感の得られる行為をおのずから心がけ,自己の行為を内面から規制するようになる。
- ③ 人間は,本質的に利己的な存在であり公平で中立的な視点には立つことができないので,積極的に互いの利己的な利害について共感し合うことが,社会全体の利益になる。
- ④ 自己の利益を追求して行われる経済活動も,やがて消費者からの共感を得るために利己心を捨て,公益を優先した真に自由な経済活動へとおのずから変化するようになる。
幸福について考えた思想家たちの説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① サルトルは,欲求の充足のうちに幸福を求める享楽的な生き方は,結局,自己を見失い,絶望に至ることを免れないと説いた。
- ② ホッブズは,人間にとっての最高の幸福は,人間固有の能力としての理性によって,真理の認識を楽しみつつ生きることのうちにあると説いた。
- ③ ミルは,社会全体の幸福を目指すためには,単なる感覚的な快楽のみでなく,精神的な快楽の増大についても考慮すべきであると考えた。
- ④ デューイは,幸福を追求して行われる人間の行為は,単に自然な利己心の傾向に従って生じているにすぎず,道徳的な価値をもたないと考えた。
「倫理的であろうとすると絶望せざるを得ない人間の現実」に関して,キルケゴールはどのように考えたか。その説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 本来の自己を見失って絶望する人間は,理性によっては根拠づけられることのない信仰への決断によって,本来の自己を回復できる。
- ② 現世の悪に絶望するキリスト者は,神から与えられた現世の務めに専心することによって,人間としての本来のあり方を獲得できる。
- ③ 超越的な神がもはや存在しない現実に絶望する人間は,自ら覚悟をもって価値創造に挑むことで,本来の力を獲得することができる。
- ④ 肉体を支配する悪の原理に絶望するキリスト者は,信仰による決断を通して,魂を肉体から解放し,本来の故郷に帰ることができる。
19世紀資本主義社会の労働における人間疎外を指摘した思想家としてマルクスがいる。マルクスの考え方として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 労働者の生産物が資本家の支配下にあるという資本主義の問題を克服するために,革命による社会主義社会への移行が実現されなければならない。
- ② 数多くの矛盾が存在する資本主義社会において,商業は文明の弱点であり,商業資本家の悪徳と無政府性は強く非難されなければならない。
- ③ 帝国主義の時代においては議会制度を通じて社会を変革することは困難であり,社会主義社会は武力闘争によって実現されなければならない。
- ④ 議会制度を通じて,生産手段の公有化,富の公平な分配,社会保障制度の拡充を推進し,資本主義社会の弊害を除かなければならない。
近代以降の宗教論に関する記述として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① シュヴァイツァーは,伝統的なキリスト教的倫理思想を人間中心主義であると批判し「生命への畏敬」を提唱したが,同時にそれは伝統的な宗教を超える新しい宗教の創出となった。
- ② ニーチェは,強者を否定し弱者を讃えるキリスト数の道徳は強者に対する弱者のルサンチマン(怨み)から生まれたものであり,それに代わる新しい価値を創造しなければならないと説いた。
- ③ キルケゴールは,当時のデンマークでも影響力のあったヘーゲル哲学を批判しつつ,本来的な自己とは神の前に立つ単独者としてのみ可能になると主張した。
- ④ ユングは,個人的無意識と集合的(普運的)無意強とを区別し,宗教的象征は集合的(普通的)無意識の中に存在する元型が意識によってイメージとして把握されたものであるとした。
平和について論じた思想家にカントがいる。その考えとして最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 永遠平和を実現するためには,国家の進む方向を国民自身が決定しうる体制をもった諸国家による平和連盟が必要である。
- ② 文化の破滅が戦争をもたらすのであるから,文化の再生によってしか平和は実現できないが,その文化の再生を担うのは個々の人間である。
- ③ 個人間の搾取が国家間の搾取の原因であるので,各国内部で労働者が権力を握り階級対立を廃止すれば,国家間の対立に起因する戦争もなくなる。
- ④ 人間は好戦的本能を有するが,戦争の原因はこの本能にあるのではなく,社会的制度や伝統慣習にあり,これらを変えることは可能である。
J.S.ミルに関する説明として最も適当なものを次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 快楽に質的な差異を認め,人間の良心や利他的心情を重視するとともに,行為の正・不正の基準を,その行為が自分を含めた関係者の最大の幸福をもたらすかどうかという点に求めた。
- ② 豊かな社会を実現するには,一定のルールのもとで,自己の幸福を求める個々人の自由な活動を最大限に認めることが大切であり,社会は構成員の相互的な愛情や親切心に頼らなくても十分成り立つとした。
- ③ 個々人の幸福追求が社会の最大幸福につながるようにしようと,行為の是非を客観的に判断する方法を提案し,刑罰など外的強制を含め人々の正しい行為を促す様々な制度的工夫を行った。
- ④ すべての人が幸福になるためには各自が無秩序に利益追求を行う資本主義社会の仕組みを根本的に改め,経済活動を計画的に行うことによって社会の生産力を発展させ富を公平に分配する必要があるとした。
理性的人間観を揺るがすことになった思想家の一人に精神分析学の創始者フロイトがいる。フロイトの学説に関する記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 自我は快感を求めるエス(イド)の要求を現実に適応させ,同時に良心としての超自我の命令にも応じようとする。
- ② ノイローゼ(神経症)の原因となるものは,心の深層としての無意識の中に昇華された性的欲求などの衝動である。
- ③ 欲求不満から生じる不安や緊張から自我を守ろうとする防衛機制は,欲求不満の原因となった当の問題を取り除く。
- ④ 両親の愛情を独り占めにしようとして,弟妹を邪魔者と感じる兄姉の心理を,エディプス・コンプレックスと呼ぶ。
マルクスの思想をあらわす記述として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 資本主義的生産様式が支配している社会の富は,膨大な商品の集積としてあらわれ,個々の商品はその富の基本形態としてあらわれる。
- ② 人間の意識が人間の存在を規定するのではなくて,その反対に,人間の社会的存在が人間の意識を規定するのである。
- ③ 世界史とは自由の意識の歩みである。東洋では一人が,ギリシアでは若干の者が自由だったが,ゲルマンではすべての者が自由である。
- ④ プロレタリアには,革命において鉄鎖のほか失うものは何もない。彼らには獲得すべき全世界がある。全世界のプロレタリア,団結せよ!
ベンサムに従うと,人はどのように快楽や苦痛を計算すべきであるか。その具体例として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① お喋りしながら缶入りのお茶を飲むよりも,お茶会の方が精神的な深さがある。こちらの方が高尚な快楽である。
- ② 彼女は立派な人格の持ち主で,誰からも尊敬されているから,彼女の得る快楽には二人分の快楽の価値を認めよう。
- ③ たちまち飽きがきてしまうような玩具よりも長く遊べるような玩具の方が,大きな快楽を与えてくれる。
- ④ とてもおいしいご馳走だった。そのせいでおなかをこわしたとしても,ご馳走が与えた快楽が差し引かれるわけではない。
「汝の意志の格率が、常に同時に普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ」(『実践理性批判』)というカントの言葉にかなった判断の下し方として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 誰もがいつでもどこでも,守るつもりのない約束をしたら,約束そのものが成り立たなくなる。そんな約束はしないようにしよう。
- ② 睡眠をとらずにこれ以上仕事を続けると,倒れてしまいそうだ。生物学の普遍的な法則には従わなければならないから,睡眠をとることにしよう。
- ③ まわりにいる人たちから顰蹙を買うような行為は,私個人としては問題がないと思われるものであっても,行わないことにしよう。
- ④ いかなる場合でも法律には従わなければならないから,罰をまぬがれることができるからといって法律を破るのはやめることにしよう。
西洋現代の思想家ハイデッガーの見解として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 厳密な推論を機械的に遂行する「幾何学的精神」だけではなく,人生にとっては,より柔軟で細やかな「繊細の精神」もまた重要である。
- ② 人間は技術によって,自然を利用する仕組みに取り込まれてしまっているが,根源としての存在の呼びかけに従わねばならない。
- ③ 言語やその他の記号による認識は,生の純粋な持続を空間化してしまうので,実在はむしろ直観によって捉えられねばならない。
- ④ 自然界には自然法則が成立するが,神や自由や不滅の魂といった事柄については,道徳法則に基づいて考えねばならない。
「実存」を重視した思想家にキルケゴールとサルトルがいる。二人の思想の記述として最も適当なものを,次の①~⑤のうちから順に一つずつ選べ。
- ① 日常的な道具は使用目的があらかじめ定められており,本質が現実の存在に先立っているが,現実の存在が本質に先立つ人間は,自らつくるところ以外の何ものでもないと考えた。
- ② 宇宙はそれ以上分割できない究極的要素から構成されているが,この要素は非物体的なものでそれら無数の要素が神の摂理のもとであらかじめ調和していると主張した。
- ③ 生命は神に通じる神秘的なものであるから,人間を含むすべての生命に対して愛と畏敬の念をもつべきであり,そのことによって倫理の根本原理が与えられると考えた。
- ④ 人が罪を赦され,神によって正しい者と認められるには,外面的善行は不要であり,聖書に書かれた神の言葉を導きとする内面的な信仰のみが必要だと主張した。
- ⑤ 誰にとっても成り立つような普遍的で客観的な真理ではなく,自分にとっての真理,すなわち自らがそれのために生き,また死にたいと願うような主体的真理を追求した。
科学万能主義の成立に影響を与えたものとしてコントの実証主義があるが,その主張として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 本当の知識は,合理的思考のみによって得られるものに限られるので,感覚に由来する知識は退けねばならない。
- ② 本当の知識は,観察された事実を基礎とするものに限られるので,経験を超えたものに関する知識は退けねばならない。
- ③ 本当の知識は,純粋に事柄を見る態度に基づくものに限られるが,実用のためのものでも知識として認められる。
- ④ 本当の知識は,実生活にとって有用なものに限られるが,宗教的なものも,有用であれば本当の知識として認められる。
近代市民社会にも潜んでいる「パターナリズム」や「多数者の専制」の危険を指摘した思想家に,J.S.ミルがいる。彼の主張として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 一般意志への服従を拒む人がいるならば社会契約を口先だけのものにしないために,社会全体でその人に契約への服従を強制しなければならない。
- ② 政府が人々の生命自由財産に対する権力を濫用する場合には,人々はいつでも,政府から権力を取り返し,新しい政府を樹立することができる。
- ③ 政治制度や文化は,人間の生産活動を支えている生産様式に左右されるのだから社会の変革には生産様式そのものの変革が伴わなければならない。
- ④ 女性が従属的な地位におかれている状況は,現代社会において見過ごすことのできない現象であり,しかも民主社会の根本原理に反した現象である。
ベンサムの思想として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 人々の生命・自由・財産を適切に維持するためには,各人は私的な制裁権を公共の政治的権力に委託しなければならない。
- ② 人間はもともと利他的であるから刑罰による法律的な制裁よりも,良心に訴える内的な制裁の方が重要である。
- ③ 人間に対して与えられる制裁は様々であるが神による死後の裁きという宗教的な制裁が最も重要である。
- ④ 公益をそこなう行為をした者に対しては,その行為によって得た利益を上回る不利益を与えるような制裁を加えねばならない。
自然法を批判する立場には実証主義がある。知識について実証主義的な主張をするスペンサーの思想として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 真の知識は自然をありのままに観察することによって得られるのだから,我々の観察をゆがめる先入見や偏見を排除しなければならない。
- ② 真の知識は疑うことのできないものであるから,「われ思う,ゆえにわれあり」という絶対に疑いえない真理によって学問的知識は成り立つ。
- ③ 人間の知識には三つの発展段階があり,このうち学問と呼びうるのは,経験的事実に即して諸現象の法則を探究する最高の段階だけである。
- ④ 科学によって知識の総合を目指すべきであり,生物学にみる進化の考え方を応用することで,人間社会についても科学的知識を得ることができる。
ヘーゲルの思想として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 婚姻は男女両性の間の法的な契約であるから,男女の愛情における本質的要素ではない。
- ② 市民社会は,法によって成り立つとしても,経済的には市民たちの欲望がうずまく無秩序状態である。
- ③ 国家は,市民社会的な個人の自立性と,家族がもつ共同性とがともに生かされた共同体である。
- ④ 世界共和国のもとでの永遠平和は,戦争はあってはならないという道徳的命令による努力目標である。
カントの思想として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ①「私は何を知るか」をモットーとして,懐疑の精神をもって謙虚に自己吟味を行う。
- ② 生への「盲目的意志」が苦悩を生み出すという認識によって,この苦悩から脱する。
- ③ 人格には絶対的な価値があるのだから,自分と他人の人格を目的として尊重する。
- ④ 他人の幸福や不幸に対して人間が自然にもつ共感・同情という道徳感情に従う。
フロイトが考えた無意識が現れる例として適当でないものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 複雑な感情を抱いている相手の名前を,言い間違えてしまう。
- ② もう一度行きたいと思っている場所に,忘れ物をしてしまう。
- ③ 朝日が昇るのを見ると,誰もが荘厳な感じを抱いてしまう。
- ④ 気掛かりなことがあると,何かに追いかけられる夢を見てしまう。
良心についてのハイデッガーの見解として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 良心とは,他者に対する思いやりと倫理的な道理や義務とを具えた人間本来の心である。
- ② 良心とは,日常生活に埋没した画一的な自己を本来的な自己へと呼びさます,現存在の呼び声である。
- ③ 良心とは,「してはいけない」という守護神からの呼びかけで,悪を禁止する警告である。
- ④ 良心とは,社会的権威を内面化したもので,自我を監視し,欲望や衝動を抑制する超自我である。
ヘーゲルは倫理の具体的内容を重視した。ヘーゲルによるカント批判として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 責務を担う主体は,この私自身であるから道徳は自己の実存に関わる真理の次元で具体的に考える必要がある。
- ② 責務を果たす手段は,物質的なものであるから,道徳の具体的内容を精神のあり方から観念的に考えてはならない。
- ③ 責務を担う場面は,人間関係や社会制度と深く関わっているから,これらを通して道徳を具体化せねばならない。
- ④ 責務を果たす目的は,人々の幸福の具体的な増大にあるから,道徳的に重視すべきは行為の動機よりも結果である。
道徳感情論の提唱者の一人としてアダム・スミスがいる。アダム・スミスの思想の記述として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
- ① 自然状態における善良な人間は,自己保存を求める自己愛と他人の不幸を憐れむ同情心とを具えていた。
- ② 共感という道徳的な感情が,利己心にもとづく各人の行動を内面から規制して,私益と公益との調和が図られる。
- ③ 純粋な愛としての他者への同情によって,現象の根底にある生への意志が弱まっていけば,苦悩から解脱できる。
- ④ 他者の気持ちを表情などから思いやる共感が,心理的な発達の基礎になって,友情や恋愛などの人間関係が生まれる。
パースにおいて思考を明晰にするとは,行動を導く信念の意味内容をはっきりと捉えることであった。これに関する次の文章を読み,パースの考え方の説明として最も適当なものを,下の①~④のうちから一つ選べ。
信念の本質は,習慣を確立するということである。そして,信念の違いは,その信念によって生み出される行動の仕方の相違によって区別される。もしも信念が,行動の仕方という点で異なっているのでなければ⋯⋯,それらの信念の意識の仕方が異なっていても,それらを異なった信念だとすることはできない。それは,ある曲を異なった調で演奏しても,異なった曲を演奏していることにはならないのと同じことである。表現の仕方で異なっているだけの信念はしばしば異なったものとされるが,その区別は架空のものなのである。
(パース「いかにしてわれわれの観念を明晰にするか」)
- ① 思考を明晰にするためには,同じ習慣的な行動であっても,異なった信念に導かれていることに注意すべきである。
- ② 思考を明晰にするためには,主観的な信念の違いにではなく,客観的な行動を導く意識の違いに注意すべきである。
- ③ 思考を明晰にするためには,信念の表現の違いにではなく,信念が生み出す行動の仕方の違いに注目すべきである。
- ④ 思考を明晰にするためには,人間の内面に隠れている意識や信念の相違を言い表す表現の違いに注目すべきである。
国語総合A
漢字と語句についてまとめておきませう
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キョウジュ / ダトウ / わずか / ショウモウ / タカシ享受 / 妥当 / 僅か / 消耗 / 節
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コウソク / おせいぼ / カンヨウ / ヨタク / /拘束 / お歳暮 / / 涵養 / 余沢